今年から工学部で新しく領域として編成された、人間情報分野の生体医工学エリア。生体医工学は、「工学」と「医学」が融合した分野で、医学に工学技術を取り入れたものです。その多くは身体機能に何らかのチャレンジを抱えている方の社会生活の円滑化や、医療診断や治療・リハビリに有効な手段を提供することを意義としています。
今回は、
そんな最新の研究分野である生体医工学エリアの研究室を取材し、
実験で使われている実験機器の一部を見せていただきましたので、紹介したいと思います!
光学式と慣性式モーションキャプチャ機器を用いた三次元動作解析
今回研究室で見せていただいたのは、光学式・慣性式モーションキャプチャ機器を使用して人体の動作解析を行う過程です。
現代の研究の現場では、このような三次元ハイテク計測技術が導入されるようになり、工学部でもさまざまなモーションキャプチャ機器が活用されています。
モーションキャプチャ機器とは、その名の通り、動的な対象物の動作や位置などを様々な手法で記録・解析する装置です。観測対象や環境、研究の条件に合わせて最適なシステムを選んだり、組み合わせて使用します。
モーションやスピードの解析だけでなく、他の計測機器と複合的に使用することで、生体力学解析、歩行分析、動作解析、動きの強度や運動量・効果や負荷、人体にとりつける製品などの操作性や機能性、身体負担などの検証が可能です。
光学反射式とは?
固定・設置された複数のカメラでキャプチャ空間を構築し、観測対象に反射マーカーをつけ、その位置をカメラでトラッキングすることで、対象物の動きを3次元座標値として計測する装置です。
また、床反力計と同期し計測することで、関節に掛かっている負荷等を推定できます。
光学式は、他の観測方式と比べても、最も絶対位置の精度の高い方式です。キャリブレーション(測定器で標準通りの値を得るための初期測定・補正・調整など)が正確に出来ていれば、約0.3mmの誤差という高精度で測定ができます。また、人物以外にも、マーカーをつけることのできる対象であれば計測することができます。
しかし、カメラを固定し、専用の空間をあらかじめ構築しなければならないため、実験室の外に持ち出したり屋外で計測実験を行なったりすることが難しいという弱点があります。そのため、屋外運動場や外部企業等、実験室外で調査する際や、広範囲を使用し動く必要のある運動の計測などには使用できないという難点があります。
▶︎ 計測の流れ
まず、マーカーが取り付けられた器具で測定空間内のカメラのキャリブレーションをし、測定可能な状態にします。
次に、被験者さん(計測対象)に反射式のマーカー(シールのようなもの)をセットします。マーカーが動かないように、ウェアや水泳帽などを装着した上から、それぞれの身体部位の指定の場所にマーカーを取り付けます。
(今回は、慣性センサ式計測装置との比較実験もしているので、写真では慣性センサも取り付けられています。)
マーカーを正しく取り付けた状態で観測空間内で動くことによって、カメラが反射マーカーの動きを捉え、その動作や身体情報などがパソコン上で記録・分析されていきます。
慣性センサ式とは?
慣性式とは、3次元の慣性運動を検出する装置である慣性センサ(加速度・各速度・方位計測)を身体に直接とりつけ、動作解析を行うものです。光学式がキャプチャ空間の構築を必要とする反面、慣性式は持ち運び可能な製品が多く、また光学式のようにカメラの死角を考慮する必要がないので、計測場所を選ばず屋外や実験室外の実際の環境での計測が可能です。
また、その他の計測装置や専用生体センサーなどと同期し、統合的に対象を解析することができます。
しかしながら、慣性センサーには、磁気の影響を受けやすい・マーカーの位置がずれやすい・高さ情報や設置面情報の正確な取得や特定の動きの取得が困難である、などの弱点があり、正確なデータ取得に課題がありました。
そのため、現在はシーンや用途にあわせて光学式と慣性式を使い分けて活用されているようです。
▶︎ 計測の流れ
計測装置を被験者さんの体(または、ロボットなどの計測対象)の複数の箇所に、ベルトなどを用いて取り付けていきます。次に、位置情報のキャリブレーションを行います。装置が付けられた状態で、原点にしたい位置で指定の姿勢をとり、初期位置の設定やセンサーの動作確認を行います。
その後、対象が動作を開始すると、パソコン上で同時にその動きを確認することができます。その他データの解析や記録もソフトウェア内で同時に行うことができます。